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制作事例

 
発表用原稿の代筆

世の中にはホンネタテマエってありますよね。実はこれ、社会に棹差す上で非常に重要な能力で、それを使い分けることで要らぬ波風を立てずに処世ができるのです。みんながみんなホンネばかり言い出したら、世の中毎日どこかで血の雨が降ることでしょう。しかし、実際にこの使い分けがなかなかうまくできない人もいます。世間では「不器用な人」扱いされますが、本当はその人こそ、稀代の正直者かもしれません。

ご依頼主 30代(女性)
依頼内容 勤め先の意見発表会の原稿を考えてほしい。

ご依頼主様は中途採用2年目のOLさん。OLさんと聞くとスーツ姿でデスクワークをこなしているイメージですが、お勤め先は製造業で、事務半分製造半分を任されていたそうです。作っているのは特殊塗料で、製造におけるご依頼主様の仕事は、塗料の色味と特性を確認しながら正しいラベルを貼っていくという手作業でした。

この会社の若社長は2代目で、自社の経営方針にコンサルティング会社から仕入れたノウハウを次々に導入しました。「お客様第一主義」「社会に感謝、仲間に感謝」「常に最高の仕事を」「ワンフォーオール、オールフォーワン」……会社のいたるところに標語を貼り巡らし、朝礼で唱和、昼休みに唱和、夕方にダメ押しで唱和と、まるで新興宗教の様相です。くわえてこの度「社員一人一人が自分の仕事への情熱を表明しあう発表会を行う」とのお触れを出し、各自に参加・発表を求めました。なんでも一等賞の原稿を書いた人には特賞があるのだとか。

ご依頼者様は戸惑ってしまいました。2代目のやっている経営施策があんまりにも陳腐過ぎて、建前ですら賞賛できず、とてもじゃないが前向きな原稿が書けないのでした。けれどもご依頼者様は30歳を過ぎて拾ってもらった中途入社の身。下手に正直なことを言って会社に居づらくなっては、たまりません。そこでさくら文研に問い合わせを入れ、適度にタテマエの利いた発表原稿の制作を依頼した、というわけです。

スタッフのモチベーションを煽って人材を効率化する手法は、しばしばフランチャイズの飲食店で見受けられます。店舗対抗やオーナー別対抗で成功体験のプレゼンテーションのコンペを行わせ、地区大会や全国大会を開催、晴れ舞台で売上や顧客満足度など部門別に表彰します。言うなれば、ロボコンや甲子園みたいなものです。学生バイトなど若くて無垢な人間は承認欲求に弱いので、ちょっと褒められるとまるで家来になったように仕事に染まります。一種の洗脳なのです。

なぜ私がそんなことを知っているかというと、実は十ン年前、とある全国チェーンの居酒屋の店長をやっていて、まさにこのやり方でスタッフを煽って業績アップを図っていたからです。当時私は20代半ばでした。煽る立場にいながら「クサくて陳腐なやり口だ」と思ったものです。このやり方は、若くて無垢な、体育会系の人間には特に効果的ですが、根が暗くて僻みがち、コンプレックスがあってさして若くも無い人間には向きません。却って馬鹿げて見えます。業態や従業員構成を知る限りにおいて、ご依頼者様の会社にはそぐわない気がしました。

原稿制作自体は、2代目社長がつくった「従業員憲章」にポイントが網羅されていましたので、非常にやりやすいものでした。これにご依頼者様の日々の就労内容をオーバーラップさせ、ごくごく小さな「働いてて良かった」エピソードを十倍にも百倍にも膨らまし、ひとつの形ができました。

このお仕事のポイントは、作成する原稿が文字原稿ではなくスピーチ用の原稿であることです。文字だけの原稿の場合、文中に全ての情報を詰め込んで、誰が読んでも同じような印象を引き出せるようにつくります。これに対し、声に出して読む原稿は、抑揚や声音で文意以上の印象を醸しだすことができます。この場合、原稿制作者は「ここは張った感じで」「ここは弱々しく」と、まるで音楽記号のように演出の指示を組み込んでおく必要があります。ですが、今回のご依頼者様の場合「そういうのは苦手なので」と、文章を平読みにするだけで通じるように書くようにとのご指示でした。原稿のアウトプットが音声である時点でそれは土台無理な話です。聴かせる文章は、文面と読み手の意図が絡み合ってはじめて機能します。文章だけどんなに上手く書いても、iPhoneのSiriさんみたいな抑揚だったら全然聞き手の心に届きません。

そこで私の方からは「あがき」とでも申しましょうか、強く読んでほしいところは太字にしたり、丁寧にゆっくり読んでほしいところは傍点を打ってみたり、視覚的に工夫して「読み」の演出を仕掛けました。その他、漢字にふりがなを打って読みのスピードが上がり過ぎるのを抑制したり、なるべく漢字熟語を控え、基本的に訓読みで推し進めたり。原稿の内容以上にスピーチ演出に注力しました。

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この記事を書いているちょうど本日、アメリカのトランプ大統領が来日し、安倍首相とゴルフに興じたとのこと。ニュースを見ていたら、大統領は自分でツイッターを操作して投稿していました。私はてっきり何もかもゴーストライターがやっているものと思っていましたから、ちょっとびっくりしました。トランプさんが本性丸出しな発言・投稿で、しばしばニュースを騒がせるのは、ご本人がタテマエ無し・ゴースト無しだからかもしれませんね。

ジャンル スピーチ原稿
規模 原稿用紙3枚以内
執筆期間 翌日
価格 2万円以内

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