さくら文研代筆カルテ
さくら文研には様々なゴーストライティングのご依頼があります。そのうちいくつかを「さくら文研代筆カルテ」として匿名でご紹介しましょう。
8)暴露小説の代筆
よく笑い話で言われますね。「言っちゃいけないよ」と言われたらつい喋ってしまう、喋らなくても喋りたくてしようがない……。この「喋りたくなる」心境って何なんでしょう。ひとつは、まあ単純に、人間の生理というか、好奇心の裏返し?……みたいなものでしょう。さらにもうひとつあるとすれば、それは「正義感」。つまり、善性が隠れた悪を徹底的に糾弾したがる、倫理的な部分です。こういう人は自分を正義の行使者だと思っているから、「言うな」と言われても叫ばずにはいられません。もっとも、この場合の「言っちゃいけないよ」は、組織にハブられるとか、命を狙われるとか、多分に警句的なのですが……。
ご依頼主 | 50代(男性) |
依頼内容 | 不正していた上司の悪事を満天下に晒したい |
長年商社に勤めていたこの方は、会社に嫌気がさしてお辞めになられたそうです。何が嫌だったかというと、上司。この上司は得意先とよからぬやり方で利益を出し、しかもそのうちのいくらかを自分の懐に入れていたそうです。ご依頼主様の先輩がそれを指摘すると、上司は権力を振りかざし、クビを切ったり左遷したり。その中の一人は気を病んで自ら命を絶ったのだとか。そのことがご依頼主様の堪忍袋の緒を切りました。上司と真っ向対立。然るべき筋に伝えて上司の処分を上申しましたが、抜かりない上司は先に手を打ち、ご依頼主様を返り討ちに。こうして悪事は闇の中、ご依頼主様は退職を余儀なくされたということです。辞めたからといってご依頼主様の怒りがとけるわけもなく、自ら暴露小説の筆を執りました。ですが、怒りが募るあまり文章にならず、さくら文研にお問い合わせになられました。
正直に言いましょう。
さくら文研は、こういう依頼は基本的にお断りします。
感情に任せた依頼は結構あります。メインは手紙です。「謝ってほしい」「許せない」「誠意を見せろ」等々。依頼者がその感情を一年以上持ち続けていらっしゃるのなら、さくら文研もお引き受けしなくはありません。しかし、一週間前だの昨日だのの問題で「書いてくれ!」と言われても、引き受ける側にはリスクがあります。過去を振り返ると、受注して急いで書いて翌日提出したところ「一晩おいて冷静になったら気が変わった。だからもう要らない」なんてこともありました。
このご依頼主様は辞めて3年以上経過されていました。一度自ら筆を取られただけのことはあり、不正のチャートはしっかり構築されていました。ストーリーが成立している以上、受注に問題はないと思い、お引き受けいたしました。
でも、大変でしたよ。ご依頼主様の怒りの火種は退職後3年経っても鎮火せず、いつまでも心の底でくすぶっていたのです。人間の感情ってすごいな、正義の熱もすごいなと、ほとほと感心しました。
善も悪も、この地球上に最初から存在していたわけではありません。最初はおそらく、太古の社会が秩序維持をはかるために、可否のルールを作ったんだと思います。やがて、それを子供たちに分かりやすく示すために、神や罪の概念ができて、それがややこしくなって宗教になったんじゃないでしょうか(極めて稚拙な私見ですが)。
不正を怒る気持ちは分かります。でも……小説にしようとするのなら、その感情はちょっと待ってください。著者や企画者は、小説を構築する際、神の立場となり、作中の善人にも悪人にも等しくリアリティを与えます。何が言いたいかというと、悪を悪として唾棄しひたすら憎むばかりでは、物語世界は成立しないのです。何とかにも一分の理というのをどこまで認められるか……。もちろん、物語総体の結論として悪を糾弾することはできます。要は読者にそのメッセージを届けられればいいのです。
暴露本。お引き受けしないわけじゃありません。ただし、熱は十分冷ましてからご依頼いただきたいものです。
ジャンル | 暴露小説(偽名とフェイク有) |
規模 | 原稿用紙300枚以内 |
執筆期間 | 2年以内 |
価格 | 70万円以内 |
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